そういうわけで、20歳もとうに過ぎ、「読み書き」英語でなく、本当に使える英語、話せるようになるためにはどうしたらいいか、しかも「日本にいながら」できる方法を模索し、私は3つの方法を考え付きました。
1つ目は、「外人がいるバーに行くこと」でした。
日本には、多くはないとはいえ英語を話す外国人は確実にいます。彼ら不特定多数と効率良く、しかもあまりお金をかけずに出会える場所として、私はバーを探しました。
大学卒業後、私は大阪で新聞記者をしていました。そして奈良の自宅に帰る途中に、そういうバーを調べてみますと、案外あるものです。例えばハードロック・カフェ。世界中にその店舗があり、外人にもよく知られています。やはり店内は外人がいます。20歳を過ぎて一から始めるというデメリットを、飲酒可を利用するという長所に変えたとも言えますね。他にもブリティッシュ・バー、スポーツ・バーなど、各国をモチーフにしたバーには、その国出身者を中心に外人が集まります。そういう店を何件も開拓し、よく仕事帰りに訪れました。
バーですから、お酒も飲みます。中にはダーツやビリヤード、メジャーリーグの試合を流している店もありました。そうしたものをきっかけに、「一緒に対戦してみないか?」と話し始めたこともしばしばありました。隣に座った外人には、チャンスとばかり「はじめまして。今日は一人?」など、文法度外視でまず話すことを中心にこちらからどんどん話しかけます。やはりお互いお酒が入っていることは、うちとけるのに時間がかからず効果的です。変に硬くなることなく、より気軽に、話も弾みます。もし相手が日本人ですと、いきなり話しかければ「何だこいつは?」と敬遠されることもたたあるでしょうが、外人の場合、通常むしろみんなで楽しく騒いで盛り上がろう!という感じでいますので、相手が見ず知らずでも、男女関係なく気さくに話しかけやすいですし、また話しかけられます。そういったバーの、社交場的な雰囲気が「話せる」英語を学びにきた私には好都合でした。
しかも日本にいる外人の多くは、彼らが言うには孤独で寂しい生活を送っているということでした。「遠い異国の地で、仕事をしてもなじめない場合が多く、仕事仲間の大半である日本人はなぜかいつもよそよそしく感じられ、日本語の話せない彼らにとって、こういった外国風のバーが唯一の居心地のよいところなのだ」、そんな内容を出会ったほとんどの外人が口を揃えたように言うのは不思議な感覚とともに驚きでもありました。
ともあれ、彼ら大半は日本で友人をもっと作りたがっているのは共通のようで、バーで生きた英語を学びに来た私にとっては格好の場所でした。少なくとも、彼らの多くは友人が欲しいことと、せっかく日本にいるのだから日本人の友人を作り、日本の文化習慣・価値観を分かち合いたいという、私が願っていたことと同じことを実は彼らの多くも願っていたのだと気付かされました。そういう状況の中では、互いにその存在が貴重になっていき、当時の私の英語の文法的ミスの1つや2つ、いや5つや6つなどお構いなしで、ジェスチャーや気持がそれらを優にカバーしていた感があります。仕事上でいやいや、よく分からない英語を話す日本人と接するのとは明らかに違う、彼らの心のよりどころとして求められる私、そして私はそういう話しやすい環境でミスを気にすることなくとにかく聞き、話すという、理想的な持ちつ持たれつの環境がありました。
日本にいながら「話せる英語」を身につける方法の2つ目は、インターネットで外国の人々とおしゃべりすることでした。いくつかのウェブサイトでは、世界中の人々とパソコンを通じておしゃべりし、友人を作ることができます。日本では俗にいう「出会い系サイト」という不純な出会いを目的にしたものが多く存在しますが、純粋に世界中の人と楽しくおしゃべりし、様々な価値観や文化・習慣の違いなどを共有するのが目的の世界規模のウェブサイトもあります。いろいろなサイトをよく読み、確認した上で私はあるサイトを選びました。
そこでは、自分のプロフィールを書き、サイトに公表。興味を持ったメンバーがサイト経由で私宛にスマイルという案内メールが届きます。私がその人とおしゃべりしてみたいと思えば返信し、嫌なら何もしません。こちらからスマイルを送るという、その逆もあります。そのサイトからのメール送受信ですから、私のメールアドレスはこちらから教えない限りその誰にも知られることはありません。イギリス、アメリカ、カナダ、そして英語が話せる人なら英語圏を問わず、ロシア、韓国、ドイツの人々など、自宅にいながら様々な人とおしゃべりができるのは非常に楽しいものです。
また先程のバーのように出かけることもなく、自分の家で空いた時間にすぐおしゃべりできる点は大きな魅力です。世界中で友人を何人も持っていると、時差が12時間違う国の友人、8時間、6時間、1時間など、こちらの空いた時間に話せる相手も変化が付いて面白いです。また時には、「日本では今でも忍者がいるの?」と聞いてくる人もいます。現地で得られる日本の情報の全てが、日本の現状を正しく伝えていないこともあります。そのような中で間違った情報や固定観念を取り除きあうことも、世界を正しく理解し感じるためには必要です。そして現地の習慣や食習慣、独特のイベント等もリアルに知れ、時にメールで現地の風景を写真で送ってくれたりするのは楽しいものです。こちらも日本の習慣やニュースなどをどんどん英語で教え、写真も送り、生きた使われている英語を学べるとともに様々な文化・習慣・考え方・価値観を学べることができました。スカイプをお互いインストールしているならば、世界中どの国にかけてもタダ。何とも便利な世の中になったものです。その恩恵を十分に活用した方法です。
次回はその3つ目についてお話します。